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大阪高等裁判所 昭和28年(ネ)983号 判決

控訴人 山本イサエ 外六名

被控訴人 仲野庄太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等は「原判決中控訴人等勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、原判決書二枚目裏始から四行目に「被告に対し」とあるを「山本半一に対し」と訂正すると述べ、控訴人山本半蔵同山本等において、「被控訴人の主張事実は全部これを認めるが、本件賃貸借契約の解除は権利の濫用であつて無効である」と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として被控訴代理人は甲第一号証同第二号証の一、二同第三号証同第四号証の一、二を提出し当審証人仲野兼枝の証言及び原審竝びに当審における被控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一乃至三の成立を認めこれを利益に援用すると述べ、控訴人等は乙第一号証の一乃至三を提出し、当審証人脇田幸子の証言、原審竝びに当審(但し控訴人山本半蔵同等は当審のみ)における控訴人山本正美、当審における控訴人山本イサエ各本人尋問の結果を援用し、甲号証は全部成立を認めると述べた。

理由

被控訴人がその所有にかかる本件家屋を訴外亡山本半一にその主張の如き約定で賃貸していたところ、右半一において昭和二十六年九月一日以降の賃料の支払をしなかつたので、被控訴人がその主張の如き手続を経て同年十二月二十九日右賃貸借契約を解除したこと、右山本半一が昭和二十六年九月二十二日死亡し同日控訴人等が半一の遺産相続人として同人の権利義務を承継したことはいずれも当事者間に争がない。

控訴人等は、被控訴人の右賃貸借契約の解除は解除権の濫用であつて無効である、と抗弁するけれども、当審もまたかかる抗弁を排斥するものであつて、その理由は原判決に説示されたところと同一であるから、ここにこれを引用する。なお当審において控訴人等が新たに提出援用する証拠によるも右認定を在右するに足らず、かえつて、成立に争のない乙第一号証の一乃至三によれば、亡山本半一は昭和二十五年八月分までの賃料についても、その支払を怠り勝ちであつたことが明かであるから、本件契約解除が控訴人の主張するような権利の鑑用であるとは到底解せられない。さすれば、本件賃貸借契約は右の解除により、昭和二十五年十二月二十九日限り終了し、半一は被控訴人に対して本件家屋を明渡し、且つ契約解除後の賃料相当の損害金を支払うべき義務を負うに至つたところ、控訴人等は、右半一の死亡により遺産相続人として右半一の義務を承継すると共に、半一死亡後明渡しずみに至るまで右同額の損害金を被控訴人に対して支払う義務があり、控訴人等の右債務の承継は相続による包括承継であるから、控訴人等はその全部につき合同して支払の責に任ずべきものといわねばならない(民法第八百九十八条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と規定し、通常の「共有」なる文字を用いているが、相続の性質からすれば分割前における遺産の共有は、共同相続人が相続財産全体の上に各自の持分に応じて権利義務を有するいわゆる「合有」の意味に解するのが相当であり、このことは相続債務についてもまた同様である)。

控訴人半蔵同等を除くその余の控訴人等は、昭和二十五年九月分以降の賃料は全部弁済供託している旨主張するが、本件契約解除後は控訴人等は賃料としてではなく、それと同額の損害金を支払う義務があるのだから、賃料名義の供託によつては損害金についての適法な弁済があつたものとはいえない。而して昭和二十六年十月一日以降の本件家屋の賃料が一ケ月金千百円であることは控訴人等の明かに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

以上の次第であるから、控訴人等に対し、被控訴人に対する本件家屋の明渡と、賃貸借契約解除の翌日たる昭和二十五年十二月三十日以降昭和二十六年九月三十日迄一ケ月金五百四十七円、同年十月一日以降明渡済みに至るまで一月金千百円の割合による各賃料相当の損害金の支払を命じた原判決はまことに正当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口友吉 小野田常太郎 小石寿夫)

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